学校日記

桐生悠々

公開日
2023/10/16
更新日
2023/10/16

校長メッセージ

 「言わねばならないことをいうのは、愉快ではなく、苦痛である」
 これは、ジャーナリスト桐生悠々(きりゅう ゆうゆう)の言葉です。桐生悠々は信濃毎日新聞社の記者でした。

 1933年、日本陸軍が関東一帯で「防空大演習」をやりました。この時代は、まもなく戦争が始まるという気配濃厚な時だったのです。だからこれは、もし関東地方に敵機がやってきて爆撃機が爆弾を落とした時に、どうやって火を消し止めたらいいかという演習だったわけです。しかし桐生悠々は信濃毎日新聞の紙面で「関東防空大演習を嗤う(わらう)」という記事を書きます。「敵機を関東上空に迎え撃つということは、我軍の敗北そのものである」と断言したのです。関東で防空大演習をするってことは、敵機が関東上空にやってくることを前提にしている。爆弾を落とされた時点で大きな被害が出るのに、火を消し止める程度の訓練とは何事か。爆撃を受けるということはすでに日本軍は負けていることではないのか。そもそも、爆撃を受けないように守ることが必要で、本末転倒である。とまぁ、こんな内容の記事だそうです。
 至極、まっとうな意見ですよね。でもこの時代の新聞・ラジオをはじめとするメディアは、軍の批判をするようなことは御法度だったのです。桐生悠々は在郷軍人会から批判を受け信濃毎日新聞社を辞めます。
 しかし信濃毎日新聞社には桐生悠々の机が残っているそうです。「何物も恐れずに正しいことをきちんと言う。たった一人でも戦った先輩記者の姿勢を学びたい」という社風だそうです。
 そんな桐生悠々でも、言わねばならない正しいことでも、言ったことで巻き起こる事態を想像すると、辛かったと心を痛めていたことがよくわかります。

 いかがでしょう、同じような心境の方々もいらっしゃるのではないですか?


                   学校長  川合 一紀