心に残る人
- 公開日
- 2019/07/16
- 更新日
- 2019/07/16
校長メッセージ
ある日こんな光景を目にしました。ある女子高生が駐輪場へ小走りに走って行きます。自分の自転車に近づくと、その隣にある自転車が7,8台先まで将棋倒しになっているではありませんか。どうするのかと見ていたら、自分の鞄を籠に入れると、倒れている自転車を1台ずつ起こし始めます。「偉いなあ」と感心して見ていたら、そこへ買い物袋を下げた「おばさま」が近づき「あんた、何やってんのよ!倒したのね。もう!勘弁してよ。新品の自転車よ」と言うではありませんか。女子高生は、泡を食ったように口をパクパクさせるだけ。「おばさま」はひとしきり文句を言って去って行ったのです。「おばさま」に誤解され、一方的に怒られ、弁明も聞いてもらえず、さぞかし憤慨しているだろうと思いました。しかし、その女子高生は、大きく息を吸って吐き出すと、残りの自転車を起こし始めたのでした。今でもその光景は鮮明に覚えています。どんな人にも、誰も知らないその人だけの物語があります。もちろん、皆さんにもそういう物語があるでしょう。それは生きていく上でとても大切なものです。皆さんが「人の心に残る」存在であることも大切ですが、一方で、皆さんの心に「残る人」が存在するというのはもっと大切なことであると思います。どれだけ深く残っているかが、人生の「豊かさ」の証ではないでしょうか。私たちは生きていく上で、色々なものを失います。でもモノを失うより、「心に残る人」を失うことの方が大きな財産を失ったと言えるのではないでしょうか。
学校長 川合 一紀